丁 仁京Jung Inkyung

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教授

専門分野

言語学、韓国語教育

担当科目

初級韓国語、異文化コミュニケーション ほか

経歴

韓国生まれ、麗澤大学大学院言語教育研究科博士前期課程修了、同博士後期課程修了。博士(文学)。麗澤大学言語研究センターポストドクター特別研究員、福岡大学、佐賀女子短期大学を経て現職。これまで、文法語用論・社会言語学・日韓対照言語学の立場から、日韓両言語における形式名詞や文末表現を研究してきた。近年は、社会変化に伴う言語使用の変容に注目し、日韓両言語における敬語使用の変化を語用論的観点から考察するとともに、九州地域を中心とする観光施設における多言語表記景観の研究も進めている。著書に『現代韓国語の形式名詞「것geos」に関する研究』(博英社)、『チンチャ! チョアヘヨ!! 韓国語1・2』(朝日出版社、共著)などがある。

自分をひとことで言うと?

言語と文化への好奇心を大切にする言語学者

 

インタビュー

――先生は韓国のご出身だそうですね。まず、これまでの歩みについて教えてください。

はい。私の故郷は韓国南西部にある自然豊かな地域です。そこでのんびりと過ごした日々が、今の私の性格や価値観の土台になっています。子どもの頃から言葉に強い関心があり、人と人とをつなぐ「ことば」の力に魅力を感じていました。ただ、当時はまだ、それを研究として深めていくとは思っていませんでした。高校卒業後は、まず社会に出て、韓国や香港で仕事をしていました。多様な文化や価値観の中で働く経験はとても刺激的で、毎日が新しい発見の連続でした。

特に香港での生活は印象的でした。街を歩けば、広東語、中国語、英語、日本語、韓国語など、さまざまな言語が飛び交っています。同じ場所にいても、使う言語によって人間関係の距離感や表現の仕方が変わることに強い興味を持つようになりました。その経験をきっかけに、改めて大学へ進学し、観光学や中国語を学ぶようになりました。「なぜこの場面ではこの言い方をするのか」「同じ意味でも、なぜ言語によって表現が違うのか」と考えるようになったことが、後に言語研究へ進むきっかけになったと思います。

――その後、日本へ留学されたのですね。

はい。日本語そのものへの関心もありましたし、韓国語と日本語を比較しながら研究したいという思いが強くなり、日本へ留学することを決めました。実際に日本で生活してみると、日本語には単に文法や語彙だけでは説明できない、非常に繊細なコミュニケーションの仕組みがあることを実感しました。

たとえば、日本語では相手との距離感や場面によって表現が大きく変わります。韓国語にも敬語体系がありますが、その運用の仕方や人間関係の表し方には違いがあります。私は、そうした違いに強い関心を持ち、大学院では文法語用論、社会言語学、そして日韓対照言語学の観点から研究を進めてきました。

――具体的には、どのような研究をされてきたのでしょうか?

主に、日韓両言語における形式名詞や文末表現について研究してきました。たとえば、日本語の「の」「もの」「こと」などの形式名詞や、「のだ」「ものだ」「ことだ」「だろう」といった文末表現です。これらは単なる文法項目ではなく、話し手の気持ちや相手との関係性、会話の流れを調整する重要な役割を持っています。

韓国語にも似たような働きを持つ表現がありますが、完全に一致するわけではありません。そのため、日本語学習者が日本語を学ぶ際には、「意味は分かるけれど、自然に使うのが難しい」という問題がよく起こります。私は、そうした微妙なニュアンスの違いや使用場面の特徴を分析し、どのように教えればより実践的な言語運用能力につながるのかを考えてきました。

また、近年は社会の変化と言語使用の関係にも関心を持っています。特に敬語使用の変化については、とても興味深いテーマだと感じています。以前に比べると、日本でも韓国でも上下関係や人間関係のあり方が変化し、敬語の使い方も少しずつ変わってきています。SNSやインターネットの普及によって、若い世代を中心に新しいコミュニケーションスタイルも生まれています。言語は単なる「ルール」ではなく、社会や文化の変化を映し出す鏡のような存在だと思っています。

――観光施設における多言語表記についても研究されているそうですね。

はい。これも社会言語学的な関心から始まった研究です。日本を訪れる外国人観光客が増える中で、駅や観光地、商店街などには多言語表記が急速に増えています。日本語、英語、中国語、韓国語など、複数の言語がどのように使われているのかを見ると、その地域が「誰に向けて情報を発信しているのか」が見えてきます。

たとえば、同じ観光地でも、地域によって使われる言語の種類や表現方法が異なります。また、翻訳の仕方ひとつをとっても、その地域が外国人観光客をどのように迎えようとしているのかが表れます。私は、こうした「言語景観」の研究を通して、観光と地域社会、多文化共生との関係について考えています。

――さらに、アマの研究もされているとか。

はい。北部九州を中心に、海女・海士文化についての研究も進めています。アマの文化は、日本や韓国の沿岸地域に古くから存在してきた非常に貴重な海洋文化です。しかし、担い手の高齢化や後継者不足によって、その継承が難しくなっています。

私は、単に漁業の技術だけではなく、そこに根づく言葉や共同体の文化、地域の記憶にも注目しています。現地で聞き取り調査をすると、独特の言い回しや、海に対する考え方、地域特有のコミュニケーションのあり方に出会うことがあります。言語研究というと教室の中で行うイメージを持たれることもありますが、実際には地域社会の中に入って、人々の暮らしや文化と向き合うことがとても大切だと感じています。

――授業では、どのようなことを大切にされていますか?

私は、「実際に使える韓国語」を身につけることを大切にしています。そのため、授業では単に文法を覚えるだけではなく、観光客への道案内や地域交流など、実際の場面を想定した活動を積極的に取り入れています。たとえば、「外国人観光客に駅までの行き方を説明する」「地域のお祭りを紹介する」といった場面を設定し、学生同士で会話練習を行います。実践的な場面で言葉を使うことで、「伝わる喜び」や「コミュニケーションの楽しさ」を感じてもらいたいと思っています。

また、外国語学習は単に言葉を覚えることではなく、異文化理解につながるものだと考えています。韓国語を学ぶことで、韓国社会や文化、人々の価値観への理解も深まります。そして、それは同時に、自分自身の文化や考え方を見つめ直す機会にもなります。私は、学生たちに「正解を覚える」だけではなく、自ら考え、相手と対話し、自分の言葉で発信できる力を身につけてほしいと思っています。異なる文化や価値観に出会ったときに、それを拒否するのではなく、まず理解しようとする姿勢を持ってほしい。そのためにも、教室が安心して対話できる場でありたいと考えています。言葉を学ぶことは、新しい世界への扉を開くことです。韓国語を通して、世界の広さや多様な価値観に触れながら、楽しく学びを深めていきましょう。

 

武雄の印象

自然が豊かで、焼き物の窯や多彩な観光資源に恵まれ、人と人との距離が近い温かさを感じるまち

 

趣味、特技、マイブーム

温泉巡りや窯巡りを楽しみながら、まちに広がる言語景観を観察することが好きです。

 

好きな言葉や信条

「一期一会」

人との出会いを大切にし、目の前の一瞬一瞬を大事にしていきたいと思っています。

 

愛読書

『新・敬語論 なぜ「乱れる」のか』井上史雄著

 

研究者情報

https://researchmap.jp/7000011632