小長谷 有紀Konagaya Yuki
学長、教授
専門分野
文化人類学、人文地理学、モンゴル・中央アジアの遊牧文化
担当科目
地域研究論、アジア地域学Ⅰb (モンゴル・中央アジア)
経歴
国立民族学博物館名誉教授1979年、日本人女性として初めてモンゴルに留学。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。その後、京都大学文学部助手を経て、1987年より大学共同利用機関・国立民族学博物館に勤務。また、人間文化研究機構理事、日本学術振興会監事を務めた。一貫して、モンゴル遊牧社会の文化と歴史について幅広く研究し、研究資料の集成公開に努めた。主な著書として『モンゴルの春』(1991河出書房新社)『モンゴル草原の生活世界』(1996朝日新聞出版)『モンゴルの二十世紀』(2004)(中公叢書) 『世界の食文化モンゴル』(2005農文協)『人類学者は草原に育つ』(2014臨川書店)『現代モンゴルを知るための50章』(2014明石書店)などがある。そのほか論文多数。これらの業績により、2013年春に日本国より紫綬褒章、2025年秋には文化功労者に選定された。また、2022年にモンゴル国より北極星勲章、2024年に英国ケンブリッジ大学よりオノン賞を授与された。2020年より日本モンゴル学会会長を経て、現在、国際モンゴル学会会長。
メッセージ
私は長年、大阪にある国立民族学博物館でモンゴル研究を続けてまいりました。このたび、ご縁を得て、佐賀県の武雄市で、新しい学びの場の創設に取り組むこととなりました。 新大学の名称には、魅力あふれる武雄市と、多様性に満ちたアジアを直接つなぎながら、地域社会を担う次世代を育成したいという理念が込められています。それはまた、この学びの場が地域を活性化し、地元の人々にとって新たな価値をもたらすような存在でありたいという願いでもあります。地域社会の支援なくしては実現しえない願いです。どうぞよろしくお願いいたします。
自分をひとことで言うと?
強い情熱と忍耐力を持ち、人のために尽くす。
インタビュー
――先生は長年、モンゴル研究を続けてこられたそうですね。そもそも、モンゴルに関心を持たれたきっかけは何だったのでしょうか?
はい。私がモンゴルに関心を持つようになったのは、まだ若い頃のことです。当時、私はモンゴル人民共和国に留学する機会を得ました。今でこそ海外留学は比較的身近なものになっていますが、当時のモンゴルは、決して気軽に行ける国ではありませんでした。情報も少なく、日本から見れば「遠い草原の国」というイメージさえなかった時代です。
しかし、実際にモンゴルへ行ってみると、そこには日本人とそっくりなのに、まったく考え方の違う人たちがくらしていました。私はその違いが面白いなと思いました。
日本では、家や土地を所有し、一つの場所に定住することが当たり前だと考えられています。しかし、遊牧民の暮らしでは、「移動すること」が生活の基本になります。自然環境に合わせて住む場所を変えながら、家畜とともに生きていく。そこでは、「固定された場所に住むこと」が必ずしも豊かさや安定を意味しないのです。
私は、その生活を目の当たりにして、「自分が常識だと思っていたことは、本当に普遍的なものなのだろうか」と考えるようにもなりました。
――遊牧民の生活には、どのような魅力があるのでしょうか?
遊牧社会には、現代社会とは異なる時間感覚や価値観があります。たとえば、日本の都市生活では、時間を効率的に使うことが重視されます。予定を細かく管理し、できるだけ無駄をなくそうとします。しかし、草原での生活は、自然の変化に合わせて成り立っています。
天候が変われば予定も変わる。家畜の状態によって移動のタイミングも変えます。つまり、人間が自然を完全に管理するのではなく、自然と折り合いをつけながら暮らしているのです。
また、遊牧民社会では、人と人との助け合いも非常に重要です。広大な草原では、人口密度は低いです。だからこそ、互いに協力し合い、困ったときには支え合うのがあたりまえという習慣が根づいています。
私は、そうした暮らしを詳細に観察することで、単にモンゴル社会を理解するだけではなく、「人間はどう生きるのか」「社会とは何か」という根本的な問いにもつながるのではないかと思います。
――つまり、モンゴル研究を通して、日本社会も見直しているのですね。
まさにそうです。地域研究というのは、単に「外国を知る学問」ではありません。異なる社会を見ることで、自分たちの社会を相対化する学問でもあります。
たとえば、日本では「経済成長」や「便利さ」が重要視されることが多いですが、本当にそれだけが豊かさなのか。遊牧民の暮らしを見ていると、「自然とともに生きること」や「共同体のつながり」を大切にする価値観が見えてきます。
もちろん、遊牧生活が理想郷だと言いたいわけではありません。厳しい自然環境の中で暮らすことには、多くの困難もあります。しかし、異なる生き方に触れることで、「自分たちの当たり前」を問い直すことができる。そこに地域研究の大きな意義があると思っています。
――武雄アジア大学については、どのような魅力を感じておられますか?
武雄アジア大学の大きな特徴は、「まちづくり」と「アジア」の両方を学べることだと思っています。これは非常に重要なことです。
近年、地方創生や地域活性化という言葉をよく耳にします。しかし、地域の課題は、その地域だけを見ていても解決できない時代になっています。人口減少、観光、産業振興、多文化共生……、こうした問題は、世界やアジアとのつながりの中で考える必要があります。
一方で、「グローバル化」というと、大都市や海外へ目を向けることばかりが強調されがちです。しかし、本当に大切なのは、「世界とつながりながら地域を創る」という視点だと思っています。
たとえば、地方の小さな町であっても、観光や文化、産業を通じて世界と結びつくことができます。地域にある歴史や文化、自然環境を見直し、それを世界へ発信していく。そうした取り組みの中で、新しい地域の可能性が生まれていきます。
私は、武雄アジア大学が、そのような人材を育てる場所であると考えています。
――学長として、どのような学生を育てたいと考えておられますか?
私は、学生一人ひとりが、自分自身の未来を主体的に描けるようになってほしいと思っています。
大学という場所は、単に知識を身につけるだけの場所ではありません。さまざまな人と出会い、自分とは異なる価値観に触れながら、「自分はどう生きたいのか」が自然に導かれるような場所ではないでしょうか。
そのためには、失敗を恐れずに挑戦することが大切です。海外へ行ってみる、地域の人々と交流してみる、現場へ足を運んでみる。そうした経験の中で、人は少しずつ成長していきます。
私自身、若い頃にモンゴルへ留学した経験が、その後の人生を大きく変えました。もしあの時、未知の世界へ飛び込む勇気を持たなかったら、今の私はなかったと思います。
だからこそ、学生たちにも、「自分の知らない世界」と積極的に出会ってほしいと思っています。そして、その経験を通して、自分らしい視点や価値観を育ててほしいですね。
――授業では、どのようなことを大切にされていますか。
私は「地域研究論」と「アジア地域学」の二つの科目を担当していますが、授業では「現場感覚」を大切にしています。
地域研究というと、統計や歴史資料を使った学問という印象を持つ人もいるかもしれません。もちろん、それらも切り口としてとても重要です。そして、さらに大切なのは、その地域で暮らしている人々の声を聞き、現場の空気を感じたいと願うことです。
たとえば、モンゴルの遊牧民社会について学ぶ場合でも、単に教科書の知識を覚えるだけでは不十分です。人々がどのような風景の中で暮らし、どのような価値観を持ち、どのような日常を送っているのかを想像することが必要です。
また、「アジア」と一言で言っても、その中には多様な文化や社会があります。日本と似ている部分もあれば、まったく異なる価値観もある。その違いを面白がりながら学んでほしいと思っています。
――最後に、学生へのメッセージをお願いします。
今の時代は、変化のスピードが非常に速く、先の見えにくい時代だと言われています。だからこそ、自分自身の視野を広げ、多様な価値観に触れることが大切です。
地域を学ぶことは、世界を学ぶことでもあります。そして、世界を知ることは、自分自身を知ることにもつながります。
ぜひ、大学での学びを通して、自分の「当たり前」を問い直してみてください。海外でも日本各地でも、未知の世界には必ず新しい発見があります。その出会いが、皆さん自身の未来を形づくっていくはずです。
私は学長として、そして研究者として、学生一人ひとりが自分らしい未来を描けるよう、その歩みを支えていきたいと思っています。
武雄の印象
祭りや窯がたくさんあってまとまっていない、いわば多様性に満ちた点が魅力です。
趣味、特技、マイブーム
数年来、ドラムを習っています。毎年、夏に1曲レコーディングをしています。
好きな言葉や信条
人事を尽くして天命を待つ。Chance favors the prepared mind.
愛読書
小説家なら、東野圭吾、宮部みゆき、スティーヴン・キング、小川洋子
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